瞼の檻

涙が一番小さな海だとしたら、瞼は一番小さな扉かもしれない。自分が唯一制御できる実体を伴う境界線。

閉じた裏側から、扉の外を想像する。悠々と流れていく光の束を、二番目の瞳で追い続ける。開いた瞬間に目が眩もうと、あてどもなく美しい想像が必要な時がある。外の新鮮な驚きを恐れにしか感じられないときも。

閉じ続けて錆びた扉が軋んで、隙間から光が漏れてきていた。内側は既に見えない渦潮に飲まれて酸素は僅かだ。扉を開ければ、開けさえすれば。

追い込まれた時に、万能の鍵があると思い込んでしまう欠陥。そんなものはどこにもないのに、むしろ、全てを無かったことにするスイッチの方がありふれているのに。

全てが開いている。開いてしまった、ずっと開きたかったはずのもの。浸透圧に押し流されてあらゆるものが混ざりあい、食いあい、手の施しようもないほど痛み、何処かへ流れていく。繰り返し。もう閉じることはない。手を押し当ててみても抗うには小さすぎて、むしろ光は濁流のように流れ込んでくる。正しさ。誠心誠意。人を想うこと。正しさに触れて恐れるのは正しくない。正しくないはずなのに。