ちぎるということ

加害者意識を一生保つのはとても難しく、火花が肌を焼くプラスマイナス10秒を待って尚脳から漏れ出ている。事前動作を見抜くためにいくつも用意された浮き島を全滅させながら帰り道のない会話を今日も。 罪悪感も適切な瞬間に取り出せなければただのゴミくず…

コップ一杯

一杯だけ、と付ければ余裕が生まれ、もう一杯です、と挟めば微塵の隙間も無くなる不思議さがそこにある。一杯、とだけ置かれた言葉がどちらに転がるのか、ひと撫でで分かれば良かったのに。 見たもの全てを救おうとする人が美化されるのはそうあるべき、だか…

雨の弦

雨が弦に見える人や星が降るように見える人、触れられる表現の一つ一つにはその人が見た世界が詰まっている。感性はタイムマシンに乗らなくても自在に過去や未来を行き来する。言葉の選び方は見ている世界との合わせ鏡であり、筆遣いであり、色彩そのものだ…

瞼の檻

涙が一番小さな海だとしたら、瞼は一番小さな扉かもしれない。自分が唯一制御できる実体を伴う境界線。閉じた裏側から、扉の外を想像する。悠々と流れていく光の束を、二番目の瞳で追い続ける。開いた瞬間に目が眩もうと、あてどもなく美しい想像が必要な時…

無音声

文章を書くときに一つだけ気にしていたことがある。あった。即座に意図を伝える分の運び方を避けること。オブラートよりも薄くなってしまった決めごとは、それでも微かに息継ぎをしている。特異な書きぶりで気を引きたかったからなのか、誰にも伝えたくない…

花ゆり落ちる

キャパシティを越えた人間を抱えた船は静かに沈むべきだ。既に冷えた目は言葉を持ちつつある。この場合の接続詞は「だけれど」ではなく「どのみち」だろうか。怯えに似た傲慢さを気取られないように口を潜める。 地面に落ちた花を拾って部屋に飾っていた頃、…

6月215日

何事もなかったかのように夕飯は口に運ばれていき、違和を感じないことに違和を感じる揺り戻しは随分と遅れてやってくる。ヒーローでもないのに。特筆すべきことはない、別に、普通、語彙は違えど司る理由は根で繋がっている。掘り出す前に消える後悔。体を…

冷え性

雪を蒔いている。時折空から落ちてくる雪を。少しでも殖えますように。足元の景色の彩度を少しでも落とせように。鮮やかになりすぎてぐらつく視界を包み隠せますように。芯の底から冷えて冷えてしかたがない人間に向いている仕事だとお告げを受けた。雪を撒…

明けない

純粋さも美しさも秘めた夜も色にすればたちまち人間らしくなってしまう。それぞれには居心地のよい形質があり、理解するためにそこから引き剥がすのはエゴイズム以外に他ならない。賢くある必要がある。そのままを飲み下すために。 躁転の終わりはいつも人生…

ずり落ちたパーカー

遠くから見ると自分の意思とそうでないものが混ざりあっているように見える痣のことを日に何度も思い出す。体の端になればなるほど、色が歪んだときに嫌でも目につくことを知る。 一本道に体の部品を落としながら、これからの変化を抑える方法ばかり考えてい…

乱気流

振り返らなくても心の気圧が観測しきれない動きをした日だった。 朝から体が金縛りにあったのは、謝らなければならない事柄があったから、だと思う。謝罪は謝罪に持っていくまでの力が殆どを占めている、と言ったら多方から串刺しにされそうだけども。 あれ…

標本になりたい

台風がいなくなった途端に夏が戻ってきたらしいことを、部屋に残った熱気の死骸を見て察する。西向きの部屋が好きでないのは、生家の部屋がそうだからである可能性が否めない。開けっぱなしの窓から滑り込んだ10月が、嘘臭く体にまとわりつく。「一日気絶し…

睡眠のための序曲

簡単な体質のせいで薬がころころ変わる。毒ではないが副作用も割と大袈裟に出る。大袈裟に振る舞ってきたからといってこんなところに芽生えなくてもよいがそうもいかないらしい。世界は一貫して責任を求めてくる。睡眠薬は一貫してブロチゾラムとトリアゾラ…

夜を彫る

文章を書いている時だけは、何故か許される気がする。許している。それが取るに足らない散文であっても、二酸化炭素以外に何かを生んでいる自分は、ほんの少しだけ容認できる。それ以外の方法を忘れかけていることにさえ気がつかなければ。前職を退いてゆる…